神様、どうか。
黒の少し大きめのクラッチバッグに必要なものを詰めながら、戸締まりと片付けをしていく。
ベージュのシルク生地ストールは、元彼からのプレゼントでブランド物のいいやつだ。
結構羽振よかったんだよね、あいつ。
まあ、指輪はくれなかったけど。
寒いからコートを着て、黒のパンプスに足を入れた時、バッグの中でスマホが振動した。
げ、社長から着信だ。
社長と話したのは、私が社長室で啖呵を切って以来。
出来ることなら出たくないけど、そんなわけにいかないから、意を決して通話ボタンを押した。
「ーーーもしもし、」
『間宮 幸子か?』
「…はい。」
なぜ、フルネーム。
『待ち合わせ場所に着いたんだが、本当に家まで行かなくていいのか?』
「あ、はい。大丈夫です。私もすぐ行きますので。」
そう言って電話を切って家を出た。