神様、どうか。
軽く口をつけたワインはとても芳醇な香りがした。
うわあ、すっごく美味しい。なに、これ。
堪らずもう一口口に含む。
こんな美味しいワイン、初めて飲んだ。
隣を見ると、社長もワインを楽しんでいる。
ごくり、と上下する喉仏。
その男らしさに、思わず見惚れてしまった。
なんだか、芸術作品並みだ。
けれど、今はそれどころではなかった。
馬鹿な私はすっかりと忘れていたけど、ここは戦場だったんだ。
もの凄い視線を感じ、前を向くと先程まで壇上に居たはずの本日の主役が、迷わずこっちに向かって来ている。
その距離、あと5メートルほど。
私の頭の中で、ドヴォルザークの新世界第4楽章冒頭部分が鳴り響く。
ちょっと、そんなに怖い目をしてこっちに来ないで!