神様、どうか。

一生に一度しか来れないような高級ホテルの女子トイレでこんなことをしている私って。


鏡の中に映る、目を真っ赤にして横髪を濡らしたアラサー女。


ああ、惨め。モヤモヤする。
こんな時には、野菜を思いっきり刻みたい。スッキリしたい。


でも、平手打ちとかじゃなくて良かったな。それだけが、救いだ。


トイレから出ると、私のコートを持ってくれていた社長と目が合った。


「悪い。ここまでするとは思わなくて。」


頭を掻きながら言う社長は本当に申し訳なさそうだ。


「なんとなく予想はついてましたけどね。」


むしろこれで済んでよかったぐらいだ。
この人は、完璧に女の執念舐めてたな。あと、私の不運さも。

だから、言ってやった。


< 57 / 284 >

この作品をシェア

pagetop