神様、どうか。


「…ごめんなさい。」

「よし、もうこの話は終わりだ。とりあえず、料理を頼もう。」

「そうですね。僕としたことが。」


絢香さんが謝ったことで、社長が仕切り直し、相川さんがウェイターさんを呼んで注文をしている。


そんな中で私は、いまだに社長の声が耳から離れない。


「今日は赤ワインでもいいか?」


社長が含みを持った笑みを見せながらそう言ったとき、ようやく意識が浮上した。


馬鹿、勘違いするな。これはフリなんだ。全部演技だ。


実際、私と社長は付き合ってなんかない。
それどころか、私たちの関係はただの上司と部下だ。

それ以上でもそれ以下でもない。


ただ何故か社長の言葉に、私の心をひどく揺さぶられた気がした。


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