ウサギとカメの物語 番外編
「登米で毎年冬の花火大会やってるの知ってるか?どんと祭の時に合わせて開催されるんだけど、冬の花火ってなかなか乙なんだよ〜」
「花火大会?何言ってんだ?」
「誘え。女は花火大会に弱いぞ。俺は去年それで今の彼女を口説いたんだ」
唐揚げをパクッと食べてビールで流し込む最上は平然とそう言ってのけると、得意の営業スマイルを俺に向かって惜しげもなく披露してきた。
きっと営業トークと共にその笑顔で押し切ってきたのだろう。
だが俺には通用しない。
「登米っていくらなんでも遠すぎるよ。今年のどんと祭は平日だし、仕事終わったあとに車飛ばして向かっても間に合うかどうか分からないし」
「定時に終わらせろ。そのへんの駐車場に車停めておいてさ、有料道路で一気に行けば1時間ちょっとでどうにか着くだろ」
「無茶言うなよ……」
「この草食系が!」
………………なぬ?
聞き捨てならないその言葉。
それってけっこう男からすると傷つく言葉だったりする。
地味にショックを受けていると、矢継ぎ早に最上がまくし立てた。
「ここまで来たら強引にでもモノにしろよ。なんのために課長に噛みついたんだよ。あの子のためなんだろ?それなら最後までその気持ち押し通せよ。出来なきゃお前を一生これから草食系男子と呼び続けてやる!」
「……………………それは嫌だ」
「じゃあやるしかないだろ。な?」
強引な最上のドヤ顔を見せつけられて、もう観念した。
いや、決意したと言った方が正しいかもしれない。
確かにずっとこのままでは俺自身が前にも後ろにも動けない状態が続いてしまう。
しかもこの間に彼女が他の男と……なんてことになってしまったら後悔してもし切れないのは目に見えている。
俺は草食系なんかじゃない!
肉食系でもないが。
ノーマルな男だ!
とりあえず綺麗な冬の花火でも眺めて、彼女の心からの笑顔を見てみたい。
それで、最上に言われた通りに誘ってみることにした。