ウサギとカメの物語 番外編
部屋の鍵を開けて玄関に入った瞬間、順に唇を奪われた。
最初から激しくて熱いキスだった。
普段は死ぬほど優しくて、毒を吐くところも見たことがなくて、厳しい上司にも楯突くことなく、取引先との電話の受け答えも穏やかで温かい。
そんな優男のイメージからは想像もつかないほど、私を求めてきた。
「奈々、好きだ」
キスの切れ間に掠れ声でそうつぶやいて、私をときめかせる。
これはもう、止められるわけがない。
私も順も、長い間秘めてきた想いが溢れてしまった。
引き戸を探りながら開けて、2組敷かれた布団のうちひとつにキスをしたまま転がった。
順の手が私の乱れた浴衣を剥がすようにまさぐり、それを受け入れる。
何度も何度も、しつこいくらいにキスをする。
息苦しくなって途中どうにか息継ぎをするけれど、すぐに荒々しく塞がれる。
ちっとも嫌じゃなかった。
完全にお互いゴーサインで、かなり凄い雰囲気になっていたところへ。
「ただいま〜!」と、場違いな元気な声。
温泉をたっぷり堪能したコズがご機嫌な顔で部屋へ戻ってきてしまったのだ。
コズはギョッとしたように大きな目をさらにこれでもかというほど見開き、バンッ!と即座に引き戸を閉めた。
しまったあああああ!
コズのこと忘れてたあああああああ!!
同じ部屋なのだからこの部屋に戻ってくるのは当たり前なのだ。
それなのに私と順ったら勢いに任せてエッチの流れになっちゃって、もう気まずいったらない。