ウサギとカメの物語 番外編
今日は1月14日。
県内の沢山の神社で毎年行われる「どんと祭」。
簡単に言うと御守りとか写真とか人形とか無下に捨てられないものを、神社が代わりにお焚き上げしてくれるお祭りなのだ。
神社の一角に大きな火を灯し、そこに人々がそれぞれ持ち寄った大切なものを燃やしてもらう。
地元民の俺にとっては当たり前のこのお祭りは、同じく地元民の山下も当たり前。ただし、秋田県出身の東山さんには初めて聞くお祭りだったらしい。
「美穂ちゃん、どんと祭行ったことないんだろ?けっこうすごい迫力だし、仕事終わったあと八幡宮に2人で行こうよ!」
山下は嘘くささが漂う下心見え見えの笑顔で東山さんを誘っていた。
きっとこんな感じで毎回誘っているのだろう。
遠目で見つけて、思わず足を止めて彼らの会話に耳を傾けた。
東山さんは申し訳なさそうに断っていた。
「ごめんなさい。今日はちょっと行けないんです」
「いっつもそうやって断るじゃん!どうせ予定とか無いんでしょ?行こうよ」
「いえ……行けません……。すみません」
ペコッと頭を下げてその場から立ち去ろうとする彼女の腕を掴んで止めた山下が、「なんだよ」とイラついたように口を尖らせた。
「まさかまだ課長のこと引きずってんの?一時期社内でも振られたって噂になってたもんね」
「え…………」
「それならなおさら行こう!どんと祭の火に当たると厄も落とせるし、健康でいられるっていうしさ!ついでに男運も上げてもらおうぜ!課長なんて雲の上の人なんだからどっちみち無理なんだよ」
山下って奴は、なんて無神経な男なんだ!
いてもたってもいられなくなって、俺はその場に乗り込んでしまった。
「山下、こんなみんなが通るところで無理やり誘ったりするなよ。断りたくても断れなくなるだろ」
俺が現れるやいなや、今までの勢いがしぼんで目に見えて作り笑いをする山下。「あれ〜神田さんいたんですか〜」とかなんとか言っている。