ウサギとカメの物語 番外編
ちょっと大きめの使い捨て容器におでんの具を沢山入れて、箸は2膳。
来た道を駆け足で戻って、さっきまで彼女がいた場所へたどり着いた…………が。
東山さんがいない。
あれ?ここじゃなかったっけ?
俺の勘違いかと思って辺りを見回すけれど、どこにもいない。
彼女が今日着ていたのはベージュの厚手のコート。そしてピンクのマフラーを巻いていた。
髪は下ろしていたな。
おでんを片手にキョロキョロと彼女の姿を探す。
━━━━━いない。どこに行ったんだろう。
探しながら、とてつもない不安に襲われた。
俺と一緒にここへ来たことを後悔してしまったんじゃないか。
気まずくて居心地が悪かったんじゃないか。
嫌な顔は見せていなかったけれど、人混みが苦手だったんじゃないか。
このままひとりで帰ってしまうんじゃないか。
………………やっぱりまだ熊谷課長のことが忘れられないんじゃないか。
こんな頼りがいもない課長に比べたら月とスッポンの俺なんかが、彼女にアタックしたところで心を揺さぶれるはずが無かったんだ。
そんなの分かっていたことなのに。
腕時計を見たら、間もなく花火が打ち上がる時間になるところだった。
周りにいる人たちも、そろそろなんじゃないかと夜空を見上げ始めている。
俺も釣られて空を見上げたけれど、花火への期待はどこにも無くて。苦しくて切ない気持ちだけが残った。