ウサギとカメの物語 番外編
「ごめん。食事に誘ったのは下心があったからだ。君が好きだから。君が普通の恋をしていたなら諦めたけど、そんな不幸な恋愛なんかで満足してる姿は見たくない。頼むから目を覚まして。俺と付き合ってくれたら全身全霊で君を愛するから」
不幸な恋愛。
神田さんは、あたしの恋をそう言い切った。
幸せか不幸かなんて、他人に分かるの?
だけど傍目から見たらあたしは不幸に見えるんだ。それだけは実感せざるを得なかった。
彼の言葉のひとつひとつに、嘘は感じられなかった。
全部が重くて、全部が誠実。
それなのに、あたしは不誠実な課長が好き。
なんて悲しい矛盾なんだろうって、胸がチクッと痛んだ。
あたしは顔を上げ、まっすぐな彼の目を真正面から見つめ返した。
答えなど決まっている。
相手が誰であろうと、あたしの気持ちが揺らぐことなんてない。
「私は熊谷課長以外の人を好きになれません。あの人しかいないんです」
あたしはハッキリ告げて、頭を下げるとその場から立ち去った。
神田さんと一緒にいると楽しい。
楽しいけど、ドキドキはしない。
課長と一緒にいると、ドキドキして胸が張り裂けそうになる。
これこそが正真正銘の恋なんだと信じていた。
信じていたのに、あたしの恋は長くは続かなかった。