ウサギとカメの物語 番外編


あたしは仕事で、取り返しのつかないミスをしてしまった。
お客様を失いかねない、重大なミス。


それは冬のある日のことだった。
あたしの恋はこの日、終わった。


お客様の配送変更の電話を取って承ったはいいものの、事務課のみんなは忙しそう。
各自電話対応をしたり、席を外していたり、難しそうな顔をしてパソコンと睨めっこしていたり。


あとで伝えればいいや、とメモをポケットにしまったのがいけなかった。
そのままそれは数日忘れられ、変更されずに届けれてしまった荷物。


運送会社にありがちなミス。
でも、あってはならないミスなのだ。


お客様から怒りの電話が来て、対応は難航。
事務課は全員仕事をストップし、原因解明に励んでいた。
あたしは数日前のことですっかり頭から抜け落ちて、自分には関係ないものと思ってしまっていたのだ。


自分のミスであることに気がついたのは、一人暮らしのアパートに帰ってから。
数日前に着たタックパンツを洗濯しようとポケットの中を確認した時に、あのメモが足元に落ちた。
それを拾って中身を見た時は、血の気が引いた。


全てを思い出したからだ。






そこから先は、よく覚えていない。
とにかく急いで会社へ戻ってみんなに謝罪し、お客様にも謝罪しなければ。
やってはいけないミスをした上に、当の本人はのほほんと帰ってしまったなんて。
あたしは自分の能力の低さを恨んだ。


タクシーに乗って会社の名前を伝えて、なるべく急ぐように言って、車を飛ばしてもらった。


どうしよう、みんな怒るかな。
とにかく謝ろう。
土下座してもいいから、謝らなくちゃ━━━━━。


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