ウサギとカメの物語 番外編
そしてたどり着いた会社の事務所には、事務課のみんなと営業課の社員が数人、そして熊谷課長と藤代部長がいた。
そこで課長に言われたのが、「バカ女」だった。
「お前のことは報告書にしっかり書いておいてやる。あとは必要ない。さっさと帰れ、バカ女」
熊谷課長の、本当の姿を見た気がした。
いつもみたいに、優しく笑ってなどくれない。
フォローなんてするつもりもない。
むしろあたしを軽蔑したように見下ろしていた。
『最低限の仕事も出来ないようなら会社には必要ない。俺もお前なんか必要ない。最初から必要なかった。もういらない。さようなら』
そう言われているような気がした。
彼の目は冷たかった。
あたしはその目を見て、あぁそうか、と思った。
この人はあたしのことなんて、ただの一度も愛してなんかくれていなかったのだ。
都合のいい女ですらなく、そのへんにいるどうでもいい女と同じ━━━━━。
仕事の邪魔になるなら平気で切り捨てられるような、いてもいなくてもどちらでも構わないちっぽけな存在だったのだ。
涙と一緒に、色々な感情が込み上げては消えていった。
あたしの盲目的な恋は、実を結ぶどころか実になる前に地面に落ちて壊れてしまった。
彼の言う通り、あたしはバカ女なんだ…………。