ウサギとカメの物語 番外編


あたしはひとりぼっちじゃない。
話を聞いてくれる同期がいるだけでも心強い。


「そういえば、美穂がこんな大変な時に悪いんだけどさぁ……、私、彼氏出来ました〜!」


居酒屋での突然の彩の報告だった。
もちろんあたしは驚いて、でもとりあえず祝福する。


「おめでとう!いいなぁ、羨ましい。まさか社内の人?」

「ううん、先々週の合コンの相手。30歳の会計士やってる人」

「じゃあ今日は彩を祝して飲み代奢っちゃう!」

「マジ!?太っ腹〜」


あはは、としばらく笑い合っていたものの、あたしはあることを思い出して首をかしげた。


「あれ?でも彩、神田さんが好きなんじゃ……」

「神田さん?あぁ、そういえばそうだったね」


そういえば、ってそんなレベルだったのかと言いたいところだけど。それはあたしには言う資格など無いので口を閉じる。
彩は苦笑いして舌を出した。


「あれは一種の憧れみたいなものよ。社内だったら誰がタイプかなーって妄想する感じ?」

「そっかぁ」


あたしは彼女のそれを聞いて、少し前の自分と重ね合わせた。


もしかして、あたしは熊谷課長に理想の男性像を求めすぎていたんじゃないかって。
それで盲目的になり、大切なことを見失ってたんじゃないかと冷静になった今なら思える。
でも、気づくのが遅すぎた。


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