ウサギとカメの物語 番外編


年が明けて、1週間ほど経った頃。


藤代部長に頼まれて、数年前の何件かの企業の取引の記録を探しに倉庫に来ていた。
こういった記録はほとんどデータにして残っているんだけど、一部抜けが見つかったらしい。
紙として印刷して倉庫に保管してあるはずだから、探して欲しいと頼まれたのだ。


走り書きのメモを片手に倉庫で四苦八苦していると、ドアが開いて誰かが倉庫に入ってきたのが分かった。
棚と棚の間から顔を出すと、営業課の最上さんがあたしを見つけて「お疲れさん」と笑いかけてきた。


「お疲れ様です!」


あたしも慌てて頭を下げる。
彼は確か神田さんと同期で、よく2人でいるのを見かけるから仲がいいのだろう。
身長はそんなに無いけど、目鼻立ちがハッキリしていてなかなかのイケメンだ。


最上さんも何か必要な書類を取りに来たのか、ズラリと立ち並ぶ棚を見上げてウロウロしている。


特にこれといった会話を交わすこともなく、あたしは目的の記録を見つけ出して両手に抱え、まだ残っている最上さんに声をかけた。


「まだここにいらっしゃいますか?もし良かったら、鍵をお願いしてもいいですか?」

「あ、うん。やるやる。鍵もらうよ」

「………………私も探すの手伝いますか?倉庫は毎日出入りしてるから見つけるの得意ですよ」


あたしの申し出を聞いた最上さんはちょっと驚いたように目を見開いたけれど、すぐに嬉しそうな笑顔に変わった。


「助かるよ。仙南商事の昔の集配記録を見たくてさ。データ化される前の、平成前半のやつ」

「あぁ、それならこっちの方ですね」


あたしはすぐに脚立を持って倉庫内を移動する。
その代わりに最上さんはあたしがさっきまで抱えていた記録を持ってくれた。

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