ウサギとカメの物語 番外編


五十音順に整頓された可動式の棚をいくつか移動させて、目的のものは難なく見つかった。
脚立にのぼって最上さんが大量の集配記録を手にして、満足そうな顔をした。


「良かった、助かったよ。俺1人じゃ夕方まで見つけられなかったかも」

「お役に立てて良かったです。あ、脚立は私が戻しておきますので、どうぞ仕事に戻ってください」

「ありがとう。東山さんって、気が利くね」

「いえ、全然!私、バカだからこれくらいしか脳がなくて……」


明るく笑い飛ばしたら、最上さんはふとあたしの顔をじっと見つめてきた。
なんだろう、とやや不安になり、徐々に近づいてくる彼と距離を取るために後ずさりする。


「言わないつもりだったけど、やっぱり言っちゃお」


最上さんはそう言って、足を止めて微笑んだ。


「え?何をですか?」

「蓮のこと」

「神田さんのこと?」


急にここで彼の名前を聞いたので、ドキッとしてしまった。
あたしが警戒しているのはそのままに、最上さんが声をひそめて「実は」と、そっと手招きしてきた。
そろそろと彼に近寄る。


「俺は蓮に君との話を聞いてる。だから親友が奮闘してるのを見て、君たちが付き合うようになればいいなぁと思ってる」

「………………あ、あの、それは」

「待って、最後まで聞いて。君がミスを犯したあの日、蓮は熊谷課長に文句を言ったらしい。君を傷つけたことを責めたんだよ」

「…………神田さんが、課長に……?」


ぐるんと脳内がかき混ぜられたような感覚になった。
上司にたてついたということ?
そんなの大丈夫なのだろうか?
あたしなんかのために、どうしてそんなことを……。


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