ウサギとカメの物語 番外編
花火大会の行われる場所は、道路の風景から察するにどちらかと言えばのどかな町のようだけれど、イベントがあるからか駐車場は混雑していてどこもかしこも人だらけだった。
気温も低くてすごく寒いはずなのに、人がごった返しているせいかそこまで冷えていない。
燃え上がる炎の中に去年身につけていたお守りを入れて、お焚き上げしてもらった。
こんなお祭りがあるなんて、きっと全国各地であたしの知らないお祭りは数え切れないほどあるのだろうな。
神田さんはあたしに合わせて歩いてくれた。
触れるか触れないかのお互いの指先が、近いはずなのに遠く感じる。
混雑する人々の間を通り抜け、ようやく少し空いたスペースを見つけて2人でそこへ入り込んだ。
ホッと一息つく。
空気が凛と済んでいて、気持ちがいい。
おそらく花火も美しく咲いてくれることだろう。
あたしの期待も膨らんでいく。
「どんと祭も花火大会も、こっちに引っ越してきてから初めてです」
「俺も冬の花火は初めてだよ。会社帰りに来た人も多そうだね」
少し寒そうに肩をすくめている神田さんを見たあと、あたしは立ち並ぶ屋台に視線を移した。
「花火が打ち上がるまで時間ありそうなので、温かいもの何か買ってきますよ」
「あっ、いいよ。俺が行く。ここで待ってて」
「あ………………、ありがとうございます」
あたしが言い出したことなのに、彼はフットワークが軽い。すぐさまその場からいなくなってしまった。
申し訳ないけれど、彼に甘えてこのまま場所をキープして待ち続けることにした。