ウサギとカメの物語 番外編


こんな寒い日っておでんが食べたくなるんだよね。
高校の頃とか、冬は部活帰りに友達とコンビニでおでんを買って食べたりしたなぁと思い出す。


息を吐くと白いモヤが浮かんで、暗い空へ消えていった。


腕時計で時間を確認すると、花火が始まるまでにはもう少しある。
それまでに神田さんが戻ってきてくれればいい━━━━━。


のほほんとその場に立っていたら、後ろからけっこうな勢いでドンッと誰かにぶつかられた。
その衝撃は背中ではなく、足。
スキニーパンツを履いた足に、絡みつくように女の子が立っていた。
よく見るとその子は泣いていた。


「痛かった?大丈夫?」


しゃがみ込んで彼女の顔をのぞき込むと、首を振って泣きじゃくった。
見たところ怪我はしていないようだ。
180度見回しても、人だらけ。
その中に女の子が1人だけでいるなんて普通に考えればおかしい話だ。
すぐにピンと来た。


「迷子になっちゃったのかな?」


コクンとうなずく女の子。
ピンクのダウンを着ていて、黒いショートパンツに白いタイツ。防寒はしっかりしているようだ。
3歳か4歳くらいに見えるけど、なにかの拍子で家族と離れてしまったのだろう。


「お父さんとお母さんのこと、一緒に探してあげるから。安心して。ね?」


震える彼女の頭を撫でると、女の子は不安げな目をしたまま私に手を差し出してきた。
手を繋ぎたいのかと気づいて、すぐに握ってあげた。


< 141 / 174 >

この作品をシェア

pagetop