ウサギとカメの物語 番外編
このままここで待っていてもこの子の両親は見つからないと判断し、神田さんには申し訳なかったけれどひとまず運営テントに彼女を連れていくことにした。
もしかしたら両親がそこへ行って彼女を待っているかもしれない。
これから花火も始まるし、迷子の放送をかけるのも難しくなってしまうから、なるべく急ぐ。
歩きながら、女の子に色々聞き出した。
「お名前言える?」
「かとうまりえ」
「まりえちゃんか〜。何歳?」
「4さい」
「お父さんとお母さんに、早く会えるといいね」
まりえちゃんはほんの少し笑ってくれた。
あたしなんかの言葉で安心し、笑ってくれるなんて信じられない。
小さなことだけど、嬉しかった。
人混みをすり抜けてたどり着いた運営テント。
そこで、あたしが予想していたことが当たった。
女の子の両親が来ていたのだ。
どうやら迷子の呼び出しをお願いするつもりだったらしい。
30代前半くらいの男女がまりえちゃんを見つけるなり即座に駆け寄ってきた。
「まり!」
「ママ〜!」
女性としっかり抱き合ったのを見て、あたしもホッとした。
まりえちゃんよりも母親の方が泣いている。
1人でほっこりしていたら、父親らしき男性が申し訳なさそうにあたしに声をかけてきた。
「あの……本当にありがとうございます。申し訳ありませんでした」
「いえ、すぐに会えて良かったです」
「もし良かったら連絡先かなにかを教えていただけませんか?お礼をしたいので……」
「大丈夫です、気にしませんので!」
こんな人として当たり前のことをしただけでお礼なんて滅相もない。
ブンブン首を振っていたら、今度は母親の方が「そんなことおっしゃらずに!」と潤んだ目で見つめてくる。