ウサギとカメの物語 番外編


あたしの気持ちも、少しは伝わるかな。
願いながら彼の手を握り返したら、そうされるとは予想していなかったらしく神田さんの方が目を丸くしていた。


「嫌じゃないの?」

「嫌じゃないです」


彼の真っ直ぐな視線を一心に浴びていることが恥ずかしくて、でも嬉しくて。
笑って答える。


「いつも私を見守ってくれて、優しく声をかけてくれて、かばってくれましたよね」

「え…………」

「神田さんほど誠実な人、私みたいな女にはもったいないくらい。他にも沢山素敵な人がいると思います」


そうだ、あなたはあたしのような女は釣り合わない。
もしかしたら、熊谷課長以上に釣り合わないかもしれない。それほど神田さんは魅力に溢れている人だと思ったからだ。


でも━━━━━。


「でも、他の女の子と神田さんが並んでるのを想像したら……そんなの嫌だって……、いつの間にか思うようになってしまって……。私って本当にワガママですよね」

「………………ううん」


神田さんはゆっくり首を振り、先ほどよりも強く強く、あたしの手を握ってくれた。
その痛いほどの力が、あたしの胸を熱くさせる。


「……………………こんなちっぽけな女でも、好きでいてくれますか?付き合ってもらえませんか?………………好きになっても、いいですか?」


神様。
私、この人に愛されるためならなんでもします。
愛されるために愛します。
誰よりも彼を愛します。


だから、幸せになってもいいですか?


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