ウサギとカメの物語 番外編
「じゃあ、うんと美味しいご飯作る!ケーキも作る!」
「うん。楽しみにしてる」
彼には内緒で、何かプレゼントも用意しておこう。
だって喜ぶ顔が見たいんだもの。
手を繋いで歩く。
たったそれだけのことが愛しくて嬉しい。
「そうだ、実家からいぶりがっこが送られてきたから、今夜食べようね」
あたしが左手に持っているバッグに入れてきたタッパーをチラッと見せて彼に言うと、彼は怪訝そうな表情をした。
「いぶりがっこ?」
「え?知らないの?たくあんをスモークしたやつ」
「漬物なの?なんだかすごい名前だね……」
「その顔は不味いと思ってるでしょ?すっごく美味しいんだからね〜」
若干拗ね気味に口を尖らせる。
すると彼は肩をすくめて申し訳なさそうにつぶやいた。
「美穂の怒った顔も可愛いからついついからかいたくなるんだよね」
「そ、そういうことは恥ずかしくなるから言わないでよっ」
「あはは、ごめんごめん」
何気なく楽しそうに彼が笑う。
彼のこの優しさ100%の笑顔が、あたしは大好き。
「蓮くん」
クイッと繋いでいる手を引いて、彼を少し引き止める。
彼のアパートはすぐそこだ。
だけど、周りに人もいないしいいか。
あたしはちょっとだけ背伸びして、彼の頬にキスをした。
「したくなったの。それだけ」
それだけ早口で言って目を伏せたら、彼があたしの耳に口を寄せて囁いた。
「続きは家でね」
「なっ……!なんてこと!」
「え?違うの?」
「違…………わない……かな」
「あははは」
あぁ、幸せ。
幸せって思いすぎてごめんなさい。
でも、彼となら楽しい未来を描ける。
そう思える人に出会えて良かった。
だから蓮くん。
繋いだ手を離さないでね。
あたしと蓮くんの社内恋愛は、継続中です。
東山美穂の物語
おしまい。