ウサギとカメの物語 番外編
玄関の鍵はもともと開いていたようで、ドアがガチャリと音を立てて中から久しぶりに見る柊平がひょっこりと顔を出した。
その顔は悲しいことに迷惑そうな表情を浮かべている。
最後に会ったのは確か秋で、彼が本社に用事があって来た時だったから、おそらく半年以上は会っていない。
「柊平〜!!久しぶり〜!!」
感動の再会ということで抱きつこうとしたら、彼の手が伸びてきて俺の体を押しのけて完全拒否された。
うん、想定内の反応だ。
柊平は前に見た時よりも少し髪の毛が短くなっていて、いくらか小ざっぱりしていた。
たぶん夏だからと梢が無理やり彼を美容室に連れていったと思われる。
トレードマークとも言える黒縁メガネは、彼の結婚式前に俺が付き合って選んだなかなかオシャレなやつ。柊平が愛用してくれていることに妙な誇りを感じる。てへ。
その柊平は、怪訝そうに眉をひそめて気だるい声を出した。
「久しぶり。もしかして梢に連絡してたの?」
「んん?いや、アポ無し!驚かせようと思ってさ!サプラーイズ!」
「………………あっそ」
氷点下の冷たーい返事をした彼は、何も言わずにドアを大きく開いてそのまま中へ入っていった。
玄関口に取り残された俺は、しばし考える。
これは………………、『中へどうぞ』ってことか?
うぅむ、相変わらず言葉足らずだな柊平は!
俺は懐かしい彼の態度にニマニマしながら玄関でスニーカーを脱いだ。