ウサギとカメの物語 番外編


ふむ。なかなか広い廊下。
玄関から中に入った時点でふんわりいい匂い。これはきっと梢の趣味だな。
クンクン匂いを嗅ぎながら、前を行く柊平を追いかける。
彼はのそのそとくもりガラスの扉を開けて、リビングへ通してくれた。


「梢〜!ひっさしぶ……り…………って、あれ?」


フローリングの広ーいリビングに入り込んだ瞬間に元気よく挨拶した俺の声は、尻すぼみに終わった。


梢がいない。
その代わりに、リビングの壁際に置かれた木製のベビーベッドにコロンと寝ている赤ちゃんを見つけた。


「あっ!赤ちゃん!」

「高槻、静かに」


思わず大声を出したら、横から柊平に注意を受けた。
深い眠りに入っている赤ん坊は、ちょっとやそっとの物音じゃ起きそうにない。
寝ている顔は天使のようだった。


「ほぇぇ〜、可愛いな〜。名前なんだっけ?」

「健悟」

「いいねぇ。キラキラネームじゃないのね」

「どこからが普通でどこからがキラキラネームなの?」

「うーん、雰囲気かな?」


適当な受け答えをする俺にうんざりしたのか、柊平はソファーを指差した。
『座ってて』と言いたいらしい。
ふふん、俺もなかなかの通訳じゃないか。梢には負けないぞ。


促された通りに革張りのオシャレなソファーに腰かけて、つけっぱなしになっている旅番組に目を向ける。
なんだかのどかな日曜日だなー。
とても静かだ。元気印の梢がいないとこうも静かなのか?

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