ウサギとカメの物語 番外編
やがて、柊平がアイスコーヒーを用意してくれたので元のソファーへ舞い戻る。
炎天下の中、歩いてきたので喉が渇いていた俺は即飲み干した。
「お代わりいる?」
「いや、大丈夫。それよりも、これどうぞ〜」
俺は持ってきていた紙袋2つを柊平に渡した。
受け取った紙袋を見下ろして不思議そうな表情を浮かべる彼に、中身の説明をする。
「俺と愛里ちゃんからの出産祝いと、突然のお宅訪問のお詫びにお菓子」
「………………ありがとう」
「いーえ、どういたしまして!……なぁ、健悟くん産まれてからどうよ?良き父親ってやつ、ちゃんとやってんの?」
いつものノリで軽い気持ちで聞いたつもりだった。
どうせ柊平のことだから「まぁね」とか「それなりに」とか、そんな返事をしてくるのかと思いきや。
「俺なんか全然役立たず。健悟の夜泣きにも気づけなくて毎晩爆睡してるけど、梢はそのたびに起きてるから毎日寝不足らしい」
案外謙虚なことを言うんだな、とちょっと驚いた。
なんというか、彼らしくない答えだったので。
裏を返せば「父親らしいことをもっとしてやりたい」というようにも聞こえる。
柊平の性格を考えると、梢には面と向かって言ってないのだろう。
「そういうの、奥さんにはちゃ〜んと言葉にして伝えないとダメだぜ?いつもありがとう〜とか、お疲れ様〜とか、愛してるよ〜とかさ!」
「最後のは余計でしょ」
「なーに言ってんだよ!大事大事!俺なんか毎日愛里ちゃんに言ってるよ?好きとか愛してるとか」
「高槻と俺は別世界の人間ということで」
ノリノリな俺を冷たく突き放した柊平は、ピシャリと話を中断させて空になった俺のコップに二杯目のアイスコーヒーを注いでくれた。