ウサギとカメの物語 番外編
柊平は俺がしゃべらなければ自分から何かを話すことはない。
それを分かっているので、俺は一方的に話しかける。次から次へと。
仕事の話とか、愛里ちゃんのこととか、結婚が決まった奈々と順くんのこととか。
特に奈々たちに関しては、結婚式を親しい人たちだけ呼んで行うことにしたらしく、つい先日招待状が届いたばかりだ。
彼らは同期だしプライベートでもかなり仲がいいから、間違いなく呼ばれているだろう。
「奈々たちの結婚式には健悟くんのことは連れていくのか?」
ベビーベッドで眠る健悟くんの顔を覗き込みながら柊平に聞いてみると、彼はすぐに首を振った。
「いや、まだ小さいし連れていかない。俺の実家に預けることにした」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ久しぶりに2人で出かけるってことじゃん?思う存分イチャイチャしちゃいなよ」
「………………」
オマエと一緒にするなよ、という心の声が聞こえてきそうな柊平の鬼のような睨みを受けて、俺は得意の笑顔でそれをスルーしておいた。
そうだ、こいつはからかうのはNGだった。
嫌われたくないからこのへんでやめておこう。
すると、タイミングがいいのか悪いのか、健悟くんのお目覚めの時間が来たようだ。
パチッと目を開けて、大きく見開いて俺をまじまじと見つめる。そして気がついたらしい。俺が知らない男だと。
途端に、ぎゃああああ〜!と大声で泣き始めた。
その小さな体のどこにそんなパワーがあるんだと問いただしたいほどに、盛大に泣いている。
俺が持ってきたお菓子を出そうとしていた柊平が手を止めて、彼にしては珍しく少し速い動きでベビーベッドへ近づく。
泣きわめく坊やを慎重に抱き上げて、トントン背中を優しく叩いている。
少し時間はかかったけれど泣き声は少しずつ収まっていき、やがてピタリと泣き止んだ。