ウサギとカメの物語 番外編
「おぉ、すげぇな!さすがパパ〜」
「そんなことない」
俺には嬉しそうな顔ひとつ見せないくせに、我が子と目を合わせる彼はちょっと穏やかな顔をする。
心なしか微笑んでいるようにも見える。
家族にだけ見せる顔ってやつなのか?
そのあと、たどたどしい手つきでミルクを作り、たどたどしい手つきでそれを健悟くんに飲ませ、たどたどしい手つきでオムツを交換した柊平。
会社で見るのとはだいぶ違う印象だった。
もっとこう、亭主関白で育児にはあまり参加しないタイプかと思ったが、彼はどちらかと言うとイクメンに分類されそうだ。
その様をひとつひとつジーッと見ていたら、心底嫌そうな顔をされた。
「あんまり見ないでくれない?」
「なんで?」
「気が散る」
ガーン、と思いつつも仕方が無いのでテレビに視線を移しておいた。
そうして落ち着いてきた健悟くんを俺も抱っこさせてもらったり、音の鳴るオモチャで全力であやしてみたりしているうちに、ついに梢が帰ってきた。
「ただいま〜!」
と、元気な声が玄関から聞こえてきた。
俺は即座にソファーの陰に隠れて、柊平に小声で頼む。
「サプライズだから!ね!」
「…………いいけど玄関に高槻の靴置きっぱなしだよ」
「………………あ」
凡ミス。なんてこった。
サプライズのくせにしょうもない凡ミスをやらかした。
ところが、帰宅した梢は俺の靴が玄関にあったことには全く気づかなかったらしい。
普通にリビングに入ってきて、楽しそうな声で早速マシンガントークを始めた。