ウサギとカメの物語 番外編
「久しぶりの美容室、超〜〜〜楽しかった!ね、見てみて!この髪!朝までの疲れ切った髪とは大違いでしょ?美容師さんにさぁ、ママとは思えませんねーなんてお世辞言われちゃってついつい嬉しくなっちゃったりして〜!あははは!あとね、ついでにシュークリーム買ってきたの!食べよ食べよー!あ、健悟はウンチした?ミルクはあげた?もー胸が張ってきちゃって、おっぱいあげたいんだけどいいかな、飲んでくれるかな。いててて、ほんと3時間くらい空けると勝手に張るの困る〜……。あ、その前に充電〜」
「いや、梢、ちょっと」
「うっさいわね!充電ったら充電!」
俺の角度からは2人の姿は全く見えない。
しかしどうやら梢は「充電」という名目で柊平に抱きついているらしい。
うくく、と笑いが込み上げてくるのを必死にこらえる。
可愛いところあるじゃないか、梢。
そんな俺が同じリビングにいることなどつゆ知らず、健悟くんを抱っこした梢が
「さてさてママのおっぱい飲もうね〜、頼むよ健悟〜」
と言いながらソファーへ近づいてくる。
いつ飛び出してやろうか。
どれだけ大きなリアクションで飛び退いて驚くか見ものだな。
ヤバい、笑いが止まらない。我慢だ、俺!
「梢、ちょっと待って。それはほんとにマズい」
「は?何が?」
何かを咎める柊平。意味が分かっていない梢。
よし、そろそろ出てやるか!
俺は今がそのタイミングだとソファーの陰から飛び出した。
そこで驚いて飛び退いたのは、梢ではなく俺だった。
まさに今から母乳を我が子に飲ませようと、トップスをたくし上げてブラジャーをガッツリ見せた格好の梢が、大きな目を最大限に大きくしてこちらを見上げている。
「ご、ご、ごめん梢!」
キャッ!と思わずオネエのように俺が両手で目を覆ったら、数秒遅れて梢の「ぎゃあああああ!!」という健悟くんよりも逞しく凄まじい悲鳴が聞こえた。
「………………だから言ったのに」
という冷静な柊平だけが、呆れ顔で俺たちを見ていた。