ウサギとカメの物語 番外編
そう、ヤツはどこにでもいる普通の男。
だけど私はそんなカメ男に惚れ込んでいる。
なんでなのかしら、本当に!
でもどうしようもない、好きなんだもの。
「おおかた健悟が気になって仕方ないんでしょ」
完全に私の心を見透かしている様子のカメ男。
シラを切り通すつもりもなく、微妙な苦笑いを浮かべておいた。
「梢さえ良ければ、披露宴終わったら実家に行く?」
思わぬヤツの提案に、一瞬目を輝かせそうになったのを寸のところで思いとどまる。
いかんいかん。お義母さんの厚意を無下にしてはいけませぬ。
「いいの!今日は二次会も出るって話してたもの。もうお酒も解禁しちゃう!」
「飲み過ぎないでね」
「あんたこそベロンベロンになっても介抱してやんないからね!」
「あー……、うん。たぶん必要ないけど」
「酒だ酒っ!おめでたい日にお酒飲まなくてどうするの!飲むぞ!今日は飲むからね!」
ビシッとカメ男の鼻っ柱に人差し指を突きつけて宣言し、足早に披露宴会場へ戻った。