ウサギとカメの物語 番外編
アパートの前でタクシーを停めてもらい、荷物を持って後部座席から降りる。
ヒールのあるパンプスを履くのもかなり久しぶりだったので、足がむくんで痛い。
ヨロヨロとした足取りでアパートの通路を進み、鍵を開けて部屋の中へなだれ込んだ。
「うぅ、疲れた……」
リビングに着くなりそのへんに荷物を投げ出してソファーに横たわった私は、カメ男がのそのそとキッチンへ行くのを見届けてから目を閉じた。
しかし、すぐに聞き慣れたヤツの声。
「梢、寝るなら寝室行って」
なによ、そんなこと言ったって体がダルくて動かないんだってば。
目を閉じたまま口を尖らせる。
「無理。動けない。抱っこ」
「とりあえず飲め」
「ん?んぐっ…………」
無理やり口にストローを差し込まれた。
目を開けるとコップに入った水に、わざわざストローを添えてくれたらしい。
酔い冷ましの水を、私はぐびぐび飲んだ。
「柊平、ありがと……」
「うん。寝室には自力で行ってね」
出し惜しみしないで、抱っこくらいしてくれたっていいのに。
その無駄な筋肉どこに使うのよ。
ボルダリングだけじゃなくて妻を持ち上げなさいよ。