ウサギとカメの物語 番外編


結局私は自力で寝室……ではなく、浴室へ向かった。
結婚式に出席するために美容室でセットしてもらった髪の毛をしっかりほぐしたかったし、二次会のお店でタバコの臭いもついてしまったし。
綺麗にしてから眠りにつきたかった。


シャワーを浴びながらうっかり寝てしまいそうになり、どうにか意識を奮い起こして体を洗う。


寝不足の毎日に加えて今日は披露宴でのスピーチも緊張したし、同僚たちへの挨拶もあったし、お酒もたらふく飲んだし。
疲れもピークなのだ。


あんなに大好きでDVDだったら擦り切れるんじゃないかというほど見ていたイケメン俳優のドラマも、妊娠中に切迫で入院していた時に優くんにプレゼントしてもらったイケメン俳優の写真集も、もはや全く見ることのない日々を送っていた。


余裕ゼロの毎日だけど、この明るい性格が功を奏して近所にママ友も何人か出来たので、そっちの意味でも忙しい。
なんとか楽しくやれている。


仕事から帰ってきて食事をとるカメ男に対して、一方的に止まらないマシンガントークをぶっ放すのは今も変わりない。
きっとヤツはそんなおしゃべりな私を好きになってくれたんだ………と、信じたい。


健悟がいないとこんなにも時間に余裕があって、そして静かなんだと不思議な気持ちになりながら浴室をあとにした。


洗面所で髪を乾かし、リビングで引き出物のカタログギフトの冊子を読んでいたカメ男に声をかける。


「お風呂、次どうぞ〜」

「分かった。梢は先に寝てていいよ」

「はーい」


適当に返事をして、ヤツが座っていたところへ腰かけてカタログギフトを手に取る。


こんなゆったりした時間、出産してから初めてかもな……。
そんなことを思いながらパラパラとページをめくった。

< 170 / 174 >

この作品をシェア

pagetop