ウサギとカメの物語 番外編


カメ男はベッドに仰向けになって寝転んでいる私の上に乗り、ゆっくり体重を預けてきた。
目だけはお互い合わせている。


「そのニヤけ顔、イエスってことで」


ヤツはそれだけ言って、唇を落としてきた。
「そうよ」とか「違ったらどうするの」とか、減らず口を叩きたかったけれど。
あまりにも久しぶりのキスだったので、そんな余裕など無い。


カメ男のキスがどんなに熱くて、どんなに甘くて、どんなに気持ちいいのか瞬時に思い出した。
頭の中で、なんてこった、とつぶやく。
ヤツは何も言わないけれど、全身から伝わってくる私への想い。
それを感じて、喜んじゃってる自分が情けないったら。


「キスくらいは、たまにしないとダメだね」


絶え絶えになりつつある息を整えながらそう言うと、ん?とヤツが首をかしげた。
意味を理解していない様子のカメ男に言ってやった。


「だって、好きだって言われてるみたいで嬉しくなるから」

「………………そう」

「言葉にしてくれないんだもの。せめてキスくらいは、ちゃんとしたいなって」

「そんな隙を見せなかったのは梢でしょ」

「え?私?そんなことないよ?…………うっ!」


最後に混じった妙な唸り声は、ヤツが唐突に動いてきたからだ。まだ話してるんだから、少しは我慢してほしい。


恨めしい目つきでヤツを見たら、初めてカメ男が意地悪そうな笑みを浮かべた。
ほんの少し、口角を上げている。


「そんなに欲しいなら、いくらでも」

「………………」


もう、この時の私。
返事なんか出来なかった。
ウンとかスンとか言う前に、貪るようなキスをされてしまったからだ。
確かに言ったのは私だけど。


そうして、久しぶりに新婚のような一夜を過ごせたのでした。









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