ウサギとカメの物語 番外編
ちょっぴりお高めの靴専門店に入った私たちは、それぞれ自分の好きなようにブーツやらパンプスやらを試着した。
これ!と思うものがあったことはあったけど、2万円もしたので諦めた。
いくらなんでも2万は即決出来ない。
密かに結婚資金をコツコツ貯めているのは、順には内緒だ。
店員に「検討します」と試着したブーツを泣く泣く丁重に返却し、イスに座ってキャメルのスエード素材のパンプスを試着しているコズの元へ向かう。
ポインテッドトゥの、キレイめなパンプスだった。
ヒールがあるともっと素敵なんだろうけど、妊婦だから必然的にペタンコのものを選ぶようになる。
「キャメルよりブラックの方がいいかなぁ」
立って鏡の前で足元を確認するコズは、化粧の濃い若い店員がすかさず用意した黒のパンプスに履き替える。
どちらも大人っぽくて可愛い。
「コズが履いてる靴のイメージは黒かネイビーだわ。たまにはキャメルもいいんじゃない?」
「ほんとー?エナメルじゃなくても大丈夫かな」
「これから冬なんだからスエードでいいと思うけどな〜」
私のひと押しでコズはキャメルに決めたらしい。
「よし!」と気合を入れて、キャメルの方を購入することを伝えていた。
そして再びイスに腰を下ろして、もともと今日合わせていたミネトンカを履こうとコズが身を屈めた瞬間。
彼女の顔が険しく歪んだのが見えた。
「うっ……。いたたたた…………」
私の目の前で、呻きながらコズがお腹を抱えてイスから崩れ落ちるのがスローモーションのように流れていく。
履こうとしていた靴が散らばり、先程まで対応してくれていた若い店員が「きゃあっ!」と悲鳴を上げた。
そこで私は気がついたのだ。
コズが倒れたことに。