ウサギとカメの物語 番外編


程なくして、診察室から須和が出てきた。
ヤツの顔色や表情でコズの体調や赤ちゃんが無事なのか判断しようと思ったんだけど。
さすが能面男。
顔を見ただけでは良いのか悪いのかちっとも伝わってこなかった。


私が何が言うより先に、須和が口を開く。


「とりあえず点滴するらしい。移動するって。門脇も来て」

「あ、うん」


返事をしたところで、診察室からガラガラとストレッチャーが出てきた。
その上に、コズが青白い顔で横たわっている。
だけど目は開いていた。


「コズ!」

「奈々、ごめんね」


コズは笑っていなかった。しかも開口一番謝ってくるなんて、それも予想外。
嫌な予感が頭をよぎる。


看護師の女性2人がストレッチャーを運び、その後ろを私と須和がついていく。
大きくて広い廊下を歩きながら、さっきの中年の看護師が須和に声をかけている。


「先生がおっしゃってた通り、入院になりますから。旦那様は奥様の着替えとか小物とか必要なものを持ってきてください。あとでリストを渡します。診療計画書や同意書にサインと印鑑も要りますので、出来るだけ今日中にお願いします。自宅は遠いのかしら?」

「泉区なんで距離はありますけど、来れます。問題ないです」


え?入院?


目を丸くして驚く私は最後尾なので、詳しく説明してくれる人もいない。
そんなにコズの状態は思わしくないのだろうか。
不安が一気に押し寄せる。


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