ウサギとカメの物語 番外編
4人部屋のひとつに運ばれたコズは、ベッドにゆっくりと移動してそこに仰向けになった。
手慣れた動きで看護師たちが点滴の準備を始める。
ベッドサイドになにやらキャスター付きの機械みたいなものも用意されていて、点滴と合わせてコズに管を繋いだ。
ひと通りの作業をあっという間に終えた看護師は、私たちのいるスペースにサッとカーテンを引き、須和と共に部屋を出ていく。
彼だけは出る直前に私の方を振り向き、
「俺が戻るまで梢をよろしく」
と言った。
おそらく入院の準備でいったん自宅へ戻るのだろうから、コズに付き添っていて欲しいということだ。
そのつもりだったのでうなずいて見せると、彼は部屋から出ていった。
4人部屋のうち2つのベッドはすでに患者がおり、カーテンを締め切っている。
キョロキョロと狭い空間で落ち着きなく目を泳がせていると、コズがベッドに横になったまま尋ねてきた。
「奈々、このあと用事は?本当にここにいて平気?」
「用事なんて何にもないよ。むしろここにいさせて」
「ありがとう」
ようやくここで彼女は笑ってくれたけど、屈託のない太陽のような笑顔ではなかった。
「ねぇ、コズ。聞いてもいい?赤ちゃんは…………大丈夫なの?」
無神経かな。今話すのは辛いかな。
一番最悪の場合も考えたけど、親友だからこそすぐに話してほしくて聞いた。
悲しい時には寄り添ってあげたいし、痛みを分かち合いたかったから。