ウサギとカメの物語 番外編
働く部署は違うけど、営業課と全く接点が無いってわけでもない。
営業課が新規で取り付けた契約に基づいて事務課で書類を作ったり、彼らが担当する得意先の企業等を事務課に振り分け、それぞれ必要な時にデータを引き出せるようにしっかり管理もしている。
だけどそんなにしょっちゅう話が出来るかどうかで言うと、会話の数としては少ない。
強いていうなら、仕事上での付き合いで仲良くなったというよりは、同期の人数が少ないことも相まって順とは飲み友達になったのだった。
本当に本当に、文字通りの友達。
順を異性として意識するまでに、なんと4年もかかってしまったのだ。
何をキッカケにして彼を好きになったのか。
それは、ヤツに彼女が出来た時だった。
私だってその4年の間に何人かと付き合ったし、なんなら1人だけ飲んだ勢いで一晩体だけの関係になっちゃった人もいた。
若気の至りってやつ。
だけど順はそれまでなかなか彼女が出来なくて。
いつも私は彼の「そろそろ彼女欲しいなぁ」という嘆きを聞く役だった。
告白してきた男と付き合っては短い期間で別れる、ということを繰り返してきた私は順のその嘆きに適当に耳を傾けて、
「まぁまぁ可愛くて性格いい子が告白でもしてきたら、とりあえず付き合っちゃえば?」
っていつものノリで言った。
そしたら真剣な顔で否定してきたのだ。
「何言ってるんだよ。女の子と付き合うのにそんな“とりあえず”とか失礼だろ?付き合うならめちゃくちゃ好きな相手と付き合いたいよ」
あらまぁ。
順ったら、『 純』なんだわ。
しょーもないダジャレを思いつくほど、私は彼の真剣な言葉を受け流してしまった。
そう。受け流したはずなのに。
そのあと営業先で偶然知り合った女の子と付き合うことになったと聞かされた私は、自分でもよく分からないけど彼を質問攻めしていたのだ。
「その子のことそんなに好きなの?」
「順から告白したの?」
「その子のどこがいいの?」
「何が良くて付き合うって決めたの?」
「まさか速攻で結婚しちゃうとかないよね?」
戸惑いながらも照れたような顔で、
「めちゃくちゃ好きなんだ」
と答えた彼の顔を見ていて、気がついた。
あれ?
なにこのザワザワする気持ち。
私、もしかして、嫉妬してる?
順の彼女に。
…………てことは、順のこと好きなのか?
そこから、私の片想いが始まったのだ。