ウサギとカメの物語 番外編
それまで恋愛で苦労なんてきたことはなかった。
こんなことを自分で言うのもどうかと思うんだけど、私はわりとモテる。
合コンで6人の男が半数ほど私を狙ってきたこともあったし、コズと2人で歩いているとリアルにナンパもされる。
自分から誰かを好きになることはほとんど無くて、大体あちらから告白されていた。
だから、妙なプライドがあった。
告白は男からするものだと。
それをコズに言うと、彼女は毎度呆れたような顔をする。
「待ってたってなんにも変わんなくない?私なんてほとんど自分から好きって言っちゃってるんだけど」
似たもの同士だと思っていたコズとは、恋愛に対しての考え方だけが少し違っていた。
順のことを初めて自分から好きになって、そして相手からのアクションを待つと言う私と、真っ向から反対の意見を述べてきたのだ。
そして、あーでもないこーでもないと言いながら順のことを好きになって3年の月日が流れて、順も付き合ってた彼女に「面白みのない男だ」っていうなかなかの恐ろしい理由で数ヶ月でフラれちゃって。
さすがに本気でこの『仲のいい同期』っていう関係を変えたいと思っていた頃。
私と順の関係が変わったのは、忘れもしない、7年目の社員旅行での出来事だった。
宴会の会場でコズが一目散にお偉いさんたちにお酒を注ぎにいったから、一緒に飲む人がいなくて私は1人で退屈になりながら飲んでいた。
それで、何気なく順の方を見たら隣に須和がいて。
いいことを思いついたのだ。
須和に席を交代してもらおう、って。
須和は私の気持ちを知ってたし、自分の気持ちとかそういうのを一切主張してこない空気のような男なので、それを利用させてもらった。
思った通り、彼は「どうぞ」とすんなり席を明け渡してくれて、元の私の席に座って1人黙々と飲み始めていた。
お酌から戻ってきたコズが須和に何か文句らしきものを言ってるのが見えたけど、コズなら私のこの行動に対して怒ることはないって分かってた。
バカね、奈々ってばほんとに田嶋のこと好きなんだね、って。
コズはそう言ってくれるのが分かってたから。
目論んだように私は順の隣をゲットして、2人で楽しい楽しい宴会を過ごせる…………はずだった。
そう思っていたのに。
邪魔者が現れた。