ウサギとカメの物語 番外編
「奈々さんあーんなに綺麗なのに、どうしてお兄ちゃんなんかと付き合ってるんだろうね」
家族一同の視線が俺に集まる。
同棲することになった時に、両親に挨拶はしてもらったし俺も彼女の両親に会った。
もちろん、結婚を前提にということで。
「心配しなくても仲良くやってるよ」
「それとこれとは話が別!アラサーともなると結婚式にもいっぱい呼ばれるだろうし、奈々さんも待ってるわよ、きっと」
自分がうまく結婚して子供もいるからって、兄の俺には上から目線の妹。
いつものこととは言え、腹が立つ。
「あちらの親御さんは何も言ってこないのか?」
心配そうに親父が眉を寄せる。
きっと俺が来る前から、この話をしていたんだ。それで、煮えきらないようなら結婚話を進めようと口裏を合わせたに違いない。
「言ってこないよ。ちゃんと考えてるから余計なこと言わないでくれないかなぁ。タイミングってもんがあるだろ?」
「タイミングばかり見計らってるとあっという間に時間は過ぎていくんだぞ。父さんなんか競馬場でプロポーズしたんだから」
「あらあら、懐かしいわねぇ。うふふ、あの時はお父さん、大負けしたのよねぇ」
俺を差し置いて親父とお袋が思い出話に浸り始める。
面倒くさいのに加えて、両親のプロポーズ話とか本当に興味ない。
「本当に好きな人になら、どこでもどんな時でも、プロポーズされれば嬉しいものよ」
お袋はそう言って笑っていたけれど、「はぁ」と微妙な返事だけ返しておいた。
さすがに競馬場は無いだろ、いくらなんでも。