ウサギとカメの物語 番外編
「泉営業所の営業課の横山でーす!ねぇ、君、めっちゃ美人だね!一目惚れしちゃった!どこの店舗?彼氏いるの?」
近くに座っていた見るからにチャラそうな(まぁなかなかのイケメンではあったけど)男が、暇つぶしになりそうな女を見つけたって感じでぶしつけに話しかけてきた。
横山とかいう邪魔者に一発股間に蹴りでも入れてやりたかったけど、社内の人にそんなこと出来るわけもない。
無下にあしらうのも失礼だし、この先泉支店に異動にならないとも限らないし。
人間関係は崩したくなかったから、愛想だけは良くしておいたのだ。
「本店の門脇です……」
必要最低限のことだけ話してればいい。
とりあえず、この場は適当に流して切り抜ければいい。
そう思っていたのに。
順はそうじゃなかった。
それまで順とけっこういい雰囲気で飲んでたし、クリスマスの予定もこぎつけたばっかりで私の気持ちは彼しか見ていなかった。
だけど、それは順には伝わってなくて。
私が横山と話し出したからなのかなんなのか、順はそこから目を合わせてくれなくなった。
どうして、どうして、どうして……。
どうしてそんなに冷たいの?
どうしてそんなに嫌がるの?
どうしてそんなに避けるの?
「ねぇ、順?」と、話しかけてみた。
そうしたら、目を合わせないままで冷たく言われた。
「どうしてハッキリ拒否しないんだ」
いつもなら愚痴っぽく文句のひとつやふたつ、軽く言えるのに。
どんな時でも優しくて、どんな時でも私の味方をしてくれて、どんな時でも笑ってくれる、そんな順の不機嫌な顔を初めて見たから、色んなことを飲み込んでしまって言えなくなった。
口をつぐんだ。