ウサギとカメの物語 番外編
「どうなの、大野の様子は?」
行きつけの激安焼き鳥が売りの居酒屋で、俺は軟骨をコリコリ食べながら柊平に尋ねる。
彼の奥さんでもある大野は、切迫早産?切迫流産?とかいう状態らしく(早産だの流産だの、男にはよく分からない……が、喜ばしくないのだけは分かる)病院に入院しており、絶対安静を強いられているのだ。
何度か奈々と見舞いには行ったけど、顔は元気で体は大人しくしているといった印象だった。
「元気。たぶんこのまま市立病院で産むことになる……らしい」
「里帰りしないのか?」
「産んでから帰る……らしい」
「そっか〜。もうずっと家にいないんだよな?さすがに柊平も寂しいだろ?」
「家の中は静かだよ」
淡々と答える柊平の意図は分かりにくい。
長年付き合ってきた俺にも通じないことが多々ある。
寂しいのか寂しくないのか、答えになっていない。
でも、こういうところが柊平らしい。
「毎日見舞いに行ってるの?」
「残業がある日は行かない。今日みたいに飲みの予定が入った時も」
「そうか……。あー……、あのさ、柊平……」
どうにもこうにも肝心の聞きたいことを切り出せない。
ビールを飲む手だけが忙しい。
歯切れの悪い俺を追求することもなく、柊平はパクパク焼き鳥を食べている。
ただし、目だけは俺を見ていた。
きっと話し出すのを待っているんだろう。俺を焦らせないために、何も言わないのだ。
俺は思い切って、口を開いた。