ウサギとカメの物語 番外編


「俺、奈々と結婚したいんだ」


言った!ついに言った!
誰にも言わずに秘めてきたこの想いを言った!
本人にじゃないけど、親友に宣言したぞ!


柊平は一瞬、「ん?」と首をかしげた。
そしてただ一言、


「おめでとう」


と祝福した。


「え?いやいや、おめでとうっておかしいだろ。まだプロポーズしてないし」

「答えはイエスしか無いでしょ」

「そんなの言ってみなきゃ分かんないだろ!お前、大野にプロポーズした時に絶対オッケーもらえる自信あったのか?」

「うん」

「……………………あ、そう」


くそ、もしかして柊平とは根本的なところが違うんじゃないか?
プロポーズってそんなもんなのか?
断られることだってあるんじゃないのか?
なぜ不安にならないんだ!


「何をそんなに悩むのか分かんないな。本題は?」


と、腑に落ちない顔で柊平はマグロの刺身をパクッと食べる。首をかしげたままだ。


「ちょ……、貯金がさ……」

「貯金?」

「なぁ、柊平!お前どんくらい貯金してる?」

「なに急に。完全な個人情報」

「親友の後生の頼みだ!貯金額を教えてくれ!」


呆れ顔の柊平に懇願していると、周りから粘っこい視線を感じてハッとして顔を上げる。
中年のおっさん達が俺たちの会話を聞いていたらしく、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。


青くさいガキだと思っているんだろう。
ほっとけ!


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