ウサギとカメの物語 番外編
何度か足を運んだ病院。
以前まで入院していた部屋とは違う階に、大野と赤ちゃんはいるらしい。
ひとたびフロアに足を踏み入れれば、そこは元気のいい泣き声が色々なところから聞こえてくる、賑やかな病棟だった。
ナースステーションの奥には何人もの赤ちゃんが寝ていて、看護師数人が検温したり、オムツを替えたりしている。
奈々と2人で大野がいるはずの部屋へ向かう。
今回はどうやら2人部屋のようだ。
今日は土曜日だからか、男性の姿もチラホラ見える。
きっと奥さんと子供に会いに来ている旦那さんが多いんだろう。
部屋の入口に差しかかった時、中から豪快な笑い声が聞こえてきた。
大野の笑い声だけじゃない。何人もいるような印象を受ける。
彼女のことだから、同室の人とも仲良くなって騒いでいるのかと思った。
「賑やかね」と奈々も驚くほど、中からは爆笑の嵐。
「ほ〜れ、ばぁばだよ〜っ」
「こっちこっち、じぃじだぞ〜」
「おい、母ちゃん!俺にも抱っこさせろよ」
「おっぴさんだよぉ〜、ベロベロベロベロ〜」
「ちょっとおばあちゃん!ほんとに舐めるのだけはやめてよね!」
俺と奈々は顔を見合わせた。
まさか、まさか、まさか。
予感がしつつも部屋のドアをガラッと開けた。
「あ!奈々!田嶋!」
水色の入院着を着た大野が笑顔でこちらを見た。
一斉に同じような満開の笑顔で振り向いた、他の4人の大人たち……。
そこに1人だけゲッソリした顔で立っている、柊平の姿。
「2人とも来てくれてありがと〜!古川の実家からうちの家族も来てるの〜」
と、大野が言ったことで俺の予感は当たった。
この大所帯は彼女の家族だ。
結婚式で1度会っているからすぐに分かった。大野の両親と弟、そしておばあちゃん。
全員が見事に声が大きく、そして底抜けに明るい。