ウサギとカメの物語 番外編


「いや〜、大野家は初孫でね!毎日でも来たいくらいだわ〜!あらやだお友達も赤ちゃん抱っこしたいだろうから、私たちはいったん下でご飯でも食べてくるわね!」


大野によく似たお母さんが早口でそう言うと、「ほら、行くわよ!」と家族を引き連れて部屋を出ていった。
本当に嵐のような家族だ。


「騒がしくてごめんね」


と謝る大野は、出産して2日経っているけれどその疲れも見せずに元気オーラ全開だった。


2人部屋だと聞いていたけど、もうひとつのベッドは空いており荷物も何も無い。
たまたまなのか、今現在は大野しかこの部屋を使っていないようだった。
それならばあの家族が気を使わずに騒いでいても問題は無いということだ。


奈々はすぐさま大野に駆け寄り、彼女の肩を抱いて笑顔を向けた。


「コズ、おめでとうっ!お疲れ様〜!」

「ふふふ、ありがとね〜」


大野は微笑み、腕の中でスヤスヤ眠っている小さな小さな赤ちゃんをよく見えるようにしてくれた。


「わぁ、可愛い……。ちっちゃ〜い」


目を輝かせて奈々が感動している。
俺も釣られて赤ちゃんの顔をのぞき込んだ。
あんなにうるさい(と表現したら申し訳ないが)人たちに囲まれても眠れるものなのか、ものすごい神経を持っているのか、赤ちゃんは健やかに寝息を立てて寝ている。


「すげぇな、この子がお腹に入ってたのか……」


思わず俺の口からもそんな言葉が出てしまった。


「そうなんだよね。わりと小さめで産まれたんだけど、それでも死ぬほど痛かったわ」

「やっぱり陣痛って痛いの?」

「死ぬかと思うよ、ほんとに」


大野は怯える奈々を脅かすようにニヤリとした笑みを浮かべたあと、どこかスッキリしたように朗らかに笑った。


「でもそんな痛み、なんてことない。この子に会えたから」


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