ウサギとカメの物語 番外編


それから大野が眠ったままの赤ちゃんを奈々にゆっくり手渡し、拙いながらも奈々はぎこちなく胸元で目を閉じる小さな命に優しく笑いかけていた。


「健悟くん。ママに似るといいね〜」


何気ない奈々のつぶやきに、大野と柊平が目を丸くしているのが見えた。
そして、大野が手を叩いて爆笑した。


「奈々〜、もう、笑わせないでよ〜」

「俺はどう反応すればいいんだ」


さすがの柊平も不満があるらしく、あからさまに嫌そうな顔はしていたものの。
和やかなムードが部屋を包む。


「ね、順も抱っこしてみない?」という奈々の提案に、俺は全力で拒否した。


「いや、いい!首も座ってないし、抱っこすんの怖い!」

「いいからいいから。大丈夫」

「で、でも……」

「ほら、どっちでもいいから腕曲げてよ。そこに置くから」


拒否しているというのに、なんだか流されてしまって指示通りに左腕を曲げる。そこにそっと赤ちゃんが下ろされて、無駄に力が入ってしまった。
甥っ子を抱く時にも緊張した覚えがある。


「可愛いでしょ〜」


得意げに笑う奈々を恨んだが、たしかに見ているのと抱くのとでは印象が全然違った。


< 62 / 174 >

この作品をシェア

pagetop