ウサギとカメの物語 番外編
や、やった。
やったぞ、俺。
金が無いこともちゃんと言った。
でも、彼女はうなずいてくれた。
やった!やった!やっ………………。
「おめでとう、若者よ〜!!」
とんでもなく大きな声のおっさんが、隣で満面の笑顔でこれでもかというほど拍手を始めた。
「えっ?」
髭面のおっさんは、キョトンとする俺と奈々を差し置いてイスから立ち上がり、喫茶店の中にいる人たちに聞こえるように演説を始めてしまった。
「素晴らしい!素晴らしいぞ〜!こんな所で公開プロポーズとは!!皆様!ここに一組の夫婦が生まれましたぞ〜!ブラボー!!」
おお〜、と周りにいた客が一斉にどよめき、四方八方から耳が痛くなるほどの拍手が送られる。
カウンターの奥にいた3人の店員までもが拍手をしている。
ブラボー!じゃねぇよ、おっさん!
「ど、どうもお騒がせしました〜……」
俺は半分ほど残っているコーヒーにはそれ以上口をつけず、慌てて奈々の手を引いた。
目を白黒させながら、彼女は俺が促すままにバッグを掴んで立ち上がる。
拍手喝采の中を苦笑いしながら早足で抜け出し、飛び出すように病院から外へ出た。