ウサギとカメの物語 番外編
神田蓮の物語
*受付のあの子に恋して*
神田蓮、26歳。
身長は172センチ、体型は痩せ型。
昔からよく「可愛い顔してるね」とか「女の子みたいだね」とか、そういうことを言われることが多かった。
自分ではそんなに意識をしていなかったけれど、あまりにも色々なところで言われるもんだから、自分の顔は中性的であるということを実感せざるを得なかった。
でもそうは言ってもサラリーマンなので、ヒゲを生やしてワイルドにするわけにもいかない。
ジムに通って体を鍛えても、顔に似合わないと笑われそうでそれもなんとなく躊躇う。
しばらく彼女もいないし、中学校の頃からずっと続けているサッカーに打ち込んで、休みの日なんかはフットサルにも出かけたりしていた。
それくらいしか日々の楽しみを見出せなかったのだ。
そんな俺は運送会社の事務課に勤め、4年。
事務課は女性の比率が高く、男性は俺と3つ年上の先輩のみ。
女性特有のガールズトークってやつを、四方八方から聞きながら仕事をするのはけっこう辛い。
だけど女性を敵に回すと怖いってことは十分すぎるほど分かっているから、俺はいつも従順な後輩でいるようにつとめている。
職場の人間関係は良好だ。
仕事の内容も、地道な作業が好きな俺にとってはうってつけの事務職。
どうしても電話対応だけはまだまだうまくいかないけれど、それは女性陣たちの滑らかな口調を見習って前よりはマシになってきたと思う。
去年、うっかり寝坊して一度だけ遅刻をしたことがある。
その時の事務課の諸先輩方といったら、「社会人たるもの遅刻なんか!」と怒ってくるかと思ったのに、「神田くんはいつも頑張ってるから疲れが出ちゃったのね」と俺を責める人なんて誰ひとりとしていなかった。
そうなると、申し訳なさに拍車がかかる。
それからはせめてもの罪滅ぼしと思って、なるべく皆よりも早めに出社して、デスクを拭いたりゴミを片付けたり、出来ることをやるようにしていた。
そんなある朝のことだった。