ウサギとカメの物語 番外編


東山美穂という女の子をもっと知りたい、彼女ともっと話してみたい、彼女に近づきたい。
そう思うまでに、そんなに時間はかからなかった。


最上の言う通り、単純かもしれない。
でもあの愛らしい笑顔と優しい心に触れることで、この気持ちは増していくばかりだった。


そうなってくると、俺は直球人間。
いいなと思ったら即行動。
今までもそうしてきたから今回も、という思いで、朝にコーヒーを差し出してきた彼女に声をかける。


「神田さん、おはようございます!コーヒー、良かったらどうぞ」

「ありがとう。………………あ、東山さん」

「はい」


俺が呼び止めることなんて珍しいので、彼女はキョトンとした顔で大きくてクリッとした目を向けてきた。


か、か、可愛い。


という邪な気持ちを押さえ込んで、見とれないように気をつけながら昨夜から言おうと決めていた言葉を告げた。


「あのさ、もし良ければ、今度一緒に食事でもどうかな?」


東山さんは一瞬、何かを考えたように笑顔を凍りつかせた…………ように見えた。
気のせいかな、でもほんの一瞬のことで、今は朗らかな微笑みに変わっている。


そして、彼女はサラサラのロングヘアーを耳にかけながら、伏し目がちにつぶやいた。


「それは…………、どういう意味で言ってますか?」

「え?」


聞き返してから、そうか、と納得した。
どうやら警戒しているらしい。
きっと俺以外の男にも散々こうやって声をかけられ、誘われてきたに違いない。


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