ウサギとカメの物語 番外編
ただホイホイすぐに承諾されるよりもずっと印象が良かった。
ちゃんと相手を見極めて、相手の真意を確かめて、下手にからかい目的で誘われたんだとしたら彼女は断るつもりなのだ。
思っていた以上にしっかりしてる人なんだな。
「いつも美味しいコーヒーを淹れてくれるお礼をしたいんだ」
完全に建前のみの言い訳が口から出た。
でもこれは嘘じゃないし、下心は女の子の前では隠すものだ。
まずは彼女を知りたいし、俺のことも知ってほしい。
そのためには、2人きりで出かけるというのがはじめの一歩だと思ったから。
もしかしたら、彼氏がいるのかもしれない。
これだけ可愛くて性格も良かったら当然と言えば当然。
だとしたら、この時点で玉砕……。
頭の中でゴチャゴチャと考えているうちに、東山さんは探るような目で俺を見たあとにボソッとつぶやいた。
「神田さん……人気あるじゃないですか。2人で歩いてるところなんて見られたらなんて言われるか……」
「え?俺が?誰に人気だって?」
「じょ、女子社員です……」
「それは無い無い!俺、ぜーんぜんモテないから!ずっと彼女もいないし!」
全力で否定してから、しまった!と息を飲む。
ここでモテない宣言してどーする、俺!
しかもずっと彼女いないことも付け足してしまった!バカ野郎!
すると、東山さんがクスクス笑い出したので目を丸くしてしまった。
綺麗なネイルアートとやらを施した爪がキラリと光る手を口元に当てて、楽しそうに笑っていたのだ。
「ふふふ、自覚ないんですね。私の同期がかっこいいって言ってましたよ?それから秘書課の先輩たちも可愛いって言ってたし……」
「知ってた?男にとって可愛いって言葉は褒め言葉じゃないんだよ……凹むんだよ……」
「そ、そうなんですか?」
少し面食らった様子の東山さんに、俺は落ち込んだ気持ちのままで確認した。
「俺なんかと食事なんて嫌だよね、やっぱり」
「嫌じゃないです」