ウサギとカメの物語 番外編
あれ?
私と順、同じ顔をしている?
そんな顔をするなら、どうして冷たくなんてしたの?
「あの横山っていう人のこと、嫌なら嫌だって言ってほしかったんだ。でも、そんなの全然大人じゃないよな。冷静になって考えたら、奈々の対応は間違ってなかったって気がついたんだ」
ポツリとつぶやいた順の言葉に我に返り、私は慌ててコクンとうなずいて見せた。
「ごめん……。万が一いつか一緒に仕事するようなことになったら、こっぴどくするのも悪いかと思って……」
「うん。そうだよな」
順もうなずいて、ちょっとだけ寂しげな微笑みを浮かべた。
「引き止めてゴメンな。大野が待ってるだろ。部屋に戻ろう」
「あ…………コズは…………。ううん、いいや」
ちゃんと謝ってもらったっていうのに、空気は気まずいままだった。
だからコズがまだ温泉に入ってるってことも言えなくて、私と順は2人で廊下を歩いてエレベーターに乗り込んだ。
誰もいないエレベーターの中で、私は思い切って順に尋ねた。
「順。もしも、もしもだよ?私があの横山といい感じになってたら、どう思う?」
━━━━━俺は嫌だ。他の男なんか見るな。
そんな風に言ってくれないかな。
言ってほしい。
順、お願いだから、私を好きになって。
期待していた言葉を、彼の口が発してくれることを祈って尋ねたつもりだった。
だけど、現実には祈りが届かなかった。
「奈々がそうしたいって思うなら、応援してたと思うよ」
順はとびきりの営業スマイルを顔に貼り付けて、期待していた言葉とは正反対の言葉を口にしたのだ。
それを見て聞いた私は、一瞬にして頭に血が上ってしまった。
次の瞬間、自分でもビックリするくらいのひねくれた言葉が口をついて出た。
「あっそう。そうなんだ、順は応援してくれるんだ。なんだ、そうならそうと早く言ってよね。だったらあの人の部屋にでも今すぐに行ってくるわ」
「え?……おい、奈々」
「だって応援してくれるんでしょ!?」
エレベーターの中で、私はもはや怒鳴っていた。