ウサギとカメの物語 番外編


まぁ、時間なんて止まるわけもない。
そんなの26年も生きていれば分かり切ったことだ。
むしろ小学生でも知っていること。


明日も仕事だし、あまり遅くなっても帰り道が心配だし、とりあえず確認したいことはしておかなくては。


俺は腕時計で時間を確認して、何杯目かのビールをゴクッと飲んでグラスを置いた。
決心をつけて向かいに座る東山さんに問いかける。


「東山さんって……彼氏いるの?」


別に変な意味で聞いてるんじゃない、普通に気になったから聞いてるんだ!
と、誰に向けてるわけでもない言い訳を心の中でしながら、彼女の返答を待った。


すると、東山さんは少し驚いたように目を丸くして、答えに詰まるように顔を伏せてしまった。


若干困ったようにも見えるその表情に戸惑いを覚えつつ、変な下心は無いことを強調したくて笑みを浮かべる。


「い、いや、ほら!東山さんって可愛いしさ、社内でも色んな社員に言い寄られたりしてるんじゃないかなーって心配になっちゃってさ!彼氏でもいるなら問題無いなーなんて……」

「好きな人がいます」


短い言葉が、彼女の口から紡ぎ出された。


俺は返事もせずに彼女をただひたすら見つめることしか出来ない。


今、なんて言った?


俺の耳がおかしくないなら、彼女は「好きな人がいる」とでもいうようなことを言ったような━━━━━。


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