ウサギとカメの物語 番外編


東山さんは照れたようにはにかんで、そして口に片手を添えて声をひそめた。


「神田さんにだから言いますけど、会社に好きな人がいるんです。絶対内緒ですよ」


肩をすくめて、エヘヘ、と嬉しそうに笑う。


ベートーヴェンの『運命』交響曲第五番第一楽章のあの有名なフレーズが頭に鳴り響いた。


なんてこったーーーーーーーーー!









果てしないショックを受けている俺をよそに、東山さんは容赦なく言葉を続けてきた。


「なんだろ、神田さんって話しやすいからついつい色々と余計なことまで話しちゃうんですよね。お兄ちゃんが6歳上で、神田さんと同い年なんですよ。だからですかね、神田さんはお兄ちゃんみたいな存在なのかな」


お兄ちゃん……。
お兄ちゃんみたいな存在……。
兄妹的な関係……。
イコール恋愛対象外。


チーン。


てことは、なにか?
最上が言ってたじゃないか、後輩の山下が彼女を狙ってる、って。
もうすでにヤツにアプローチされたあとだったってわけなのか?


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