ウサギとカメの物語 番外編
「なによ!言ってほしい言葉もくれない、引き止めてほしい時に背中を押す、いらない時に営業スマイル、全部どうでもいいから!!」
エレベーターはぐんぐん上昇していく。
もう少しで私の部屋がある階にたどり着く。
順の部屋はひとつ上の階だから、あと少しでサヨナラ出来る。
クリスマスの約束もどうだっていい。
もう、何もかもどうでもいい。
「順のバカっ!大ッ嫌い!!」
口が滑った。
完全にこれは、私のミス。ただの勢い。出まかせ。
でも、言ってしまったものはもう遅い。
私の荒い口調にショックを受けているかと思いきや、順はやけに落ち着き払っていて。
躊躇いがちに視線を合わせて、ひと言。
「俺は、奈々のことが好きなだけだ」
「━━━━━━━━━え?」
ポカンと口を開けたまま、私は順を見つめた。
「な、なに……急に。私が大嫌いって言ったからフォローしてるつもり?」
今、好きって言った?
これは………………夢?
「違うよ」と、順が否定した。
「ずっと言えなかった。好きだ、って。仲のいい同期って関係を壊しちゃいけないと思って、言えなくて……」
そう言ってうつむいた順は、きっと私がその想いを断ってくると思っているのだろう。
自信なんて無さそうに肩を落とし、苦笑いを浮かべていた。
「私は嫌だよ……」
ポロリと口から漏れる私の本音。
これまでの、私と順との全てを思い出す。