ウサギとカメの物語 番外編
するとある日のこと。
仕事中、いったん休憩しようと事務所を出あとにして、社員用の通用口(裏口みたいなもん)を出たところにある自販機で炭酸飲料を買った。
そこからかなり離れたところに喫煙スペースはあるが、自販機のそばで休憩する社員はほとんどいないため、たまにひっそりここでのんびり休憩することがある。
炭酸飲料の缶のプルトップを開けて半分ほど一気に飲み、ひんやりした壁に背をつけてため息をついた。
もうここ1ヶ月、嫌っていうほどため息しかついていない。
俺は何がしたいんだろう。
東山さんのために何も出来なくて、ただ彼女に想いを伝えるしか出来ない。
なんて無力な男なんだ。
そう思っていたら、不意に隣から声をかけられた。
「お疲れ」
誰も来ていないと思っていたので、気配もなく訪れたその人の方をグルッと振り向くと、事務課で一緒に働いている唯一の男性の先輩の須和さんがいた。
「お、おお、お疲れ様です!」
一応返事はしたものの、俺は正直この先輩が得意ではない。
ちっとも話しかけてくれないし、自分は自分、他人は他人というタイプの人だからだ。
背が高くてメガネをかけていて、パッと見の印象は「少し地味」。
もちろん会話など続くわけもないので、早々に立ち去ろうと炭酸飲料の残りをグイッと喉に流し込んだ。
その横で、須和さんは自販機でアイスコーヒーを購入していた。